頭がいい人、悪い人の話し方/樋口裕一/PHP新書
そういえばマニュアル本のようなものをあまり読んだことがない。
古本屋でそれ系列棚を眺めるとかなりの古本が88円。数字の魔力にまんまとはまり、数冊を即、購入。そのうちの一冊。しかし、やはりこの手の本に読むほどの価値が見出せなかった。とにかくあまりに酷い内容だったのでスルーしようかどうか考えましたが、今後まだ見ぬ誰かの参考になればと感想文を書いておくことにしました。
結論から先に書いちゃいますが、会話は話すことよりかは聞くことのほうが大事で、難しいです。なので重要視すべきは話し方よりも聞き方だと思います。話し方(話の内容)にたいした意味なんてないというのが自分の考えです。
国会中継とか議論番組とかで印象の悪いひとは、だいたい相手の話が聞けてないひとです。『いや』とか『そうじゃなくて』をいつも枕詞にするようなひと。そういう印象のひとがどんな思想的に価値ある御高説を披露したところで、その言葉からはすでに説得力が失われています。聞く態度の悪さは結果としてアウトプットにも影響する、それほどに致命的なことだと思います。
このマニュアル本についてですが、各項目には下のように見出しが連なります。
自分を権威づけようとする
自分の価値観だけで全てを判断する
根拠を言わずに決めつける
ケチばかりつける
少ない情報で決めつける
etc・・・
これらは全て『頭が悪い人』の話し方らしいのですが、実はこういった条件を自らことごとく満たしているのがこの本。挙句の果てに最後は『私は話し方のプロではない』とちゃっかり自己弁護。文章指導のプロらしいですが、それすら怪しいものです。こうしちゃいけない、ああしちゃいけないとまくしたて、人間の多様性をとことん無視して話は進む。自分は会話が苦手という著者、そんな感覚だから会話が苦手なのでしょうに。
最後には無知は愚かさだなどとうそぶいています。芥川龍之介、夏目漱石、ベートーベン、ルノワールなどを知らないとバカで愚かなのだそうです。自分は必死に勉強してようやく立っているというのに、あいつらはバカのくせになんなんだ!という嫉妬にも似たこの態度。これは見苦しい限り、まったく酷い見識です。おのれの無知を知ることでより高みへ昇ったソクラテスはこの本を読んで何と言うでしょうか。
バカって言うやつがバカ。
子どもの口げんかでは常套句で自分もよく使いましたが、これが意外にも理の中心を突いてるということは面白い。
確かに知ることは大切なことですけど、そればかりが全てではないと思います。むしろ知識を蓄えることは感動する力をそぎ落とすことにもつながる。それは人間にとって明らかな損失です。ものを知れば知るほど無垢な感動からは遠ざかっていく。自分は最近TVで大人気の『おバカ』タレントのことをうらやましく思うことがあります。彼らの感動は見ていて清々しい。それは余計なことを考えない、直球勝負だからこそにじみ出る良さだと自分は思うんです。
優劣あってあたり前、どんな能力、知識を持った人にも適した立ち位置がある。人間社会はそれが認められてこそ正しく循環する。画一的な社会には進歩も面白みもありません。
この本を読んでも会話性能はまず上がらないと思います。より固定観念に凝り固まった火薬庫人間が出来上がるだけです。『こう来たらこうしろ』と記号の交換のようなこの会話術は速度重視の社会向きかもしれませんが、そんな上っ面だけの会話が豊かな会話かと言えばそれは程遠いものだと思います。
そもそも対人で傾向と対策なんてありえない。生きものは軌範から逸脱するから進歩があった。この世界はイレギュラーだらけですから、もし会話術があるとするならそれは瞬間の対応力、思考速度を速めることぐらいじゃないかと思います。そういう力を育てたいなら対人こなすしかないです。話ベタな人は本なんか読んでないでどんどん誰かと対面して話をしたらいいと思います。(今週のファミ通にオシムさんのインタビューが載っていますが、レミという麻雀のようなヨーロッパのトランプゲームが思考の瞬発力を鍛えるのに良いんじゃないかなあ、みたいな感じで紹介されていました。オシムさんが元気そうなのは何よりの喜びです。)
初対面のほんの少しの会話から全ての印象が決まるなんてことも書かれていますが、それもおおきな間違いです。対面してよく見聞きしないかぎり相手のことなんて分かるわけがない。みもふたもない言い方をすると見聞きしたって分からない。よくよく話してみたらイイヤツ、会話がはずんで結婚してみたら毒婦だったなんてことも十分現実的であり得ることですから。
興味深いデータとして、人間の印象において言葉の内容が占める割合は7%ほど(その他、表情55%、声の質、大きさ、テンポ37%とその本には示されています。)なのだそうです。数字に信憑性はありませんが、自分の実感としてもそう思います。口をついて出る言葉そのものの意味にはたいした価値は無いようです。そんなもののほとんどは自己満足だろうと、自分を鑑みてもやはり思います。
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